【2006】ぬむるす英国徘徊記 3日目 (3)

第二部:The Flower Kings

 John Jの写真を撮りまくっていたオネーサマ達はいつの間にか消え、私はスウェーデン人の兄さん達に囲まれていた。今回のUK公演ではマネージャー(という名の何でも屋さん)のRob氏は来ていないみたいで、ステージ上ではサウンドエンジニアのPetrusが一人で楽器のセッティングや水の用意などをしていた。大変そうだなぁ。Hasse用のマイクが少し前の方に移動され、これでは私はのけぞらないと写真が撮れないなぁ、と少々(勝手に)困ったり。でも今日は真ん中にキーボードがないぞ♪

 9時を回り、バンドがステージに現れた。TomasはThe WhoのTシャツを着てるが、他のメンバーは同じ昨日と衣装。楽器のセッティングをしている間、RoineがMCで繋ぐ。「みんなどこから来たの?」という問いに「England!」「Ireland!」「Sweden!」と観客が答える。「サウンドエンジニアのPetrusもスウェーデンから来たよ。スウェーデンから来たTomas Bodin。彼も・・・」とメンバーを一人一人紹介。しかしドラムのMarcusだけ「彼はスウェーデンじゃなくてスコーネから来た」と紹介して、スウェーデン人団体大受け。(JonasとMarcusが住むMalmoを含むスコーネ地方は南スウェーデンに位置し、オアスン海峡を挟んだデンマークとの交流も盛ん。独特な方言を話すらしい。『ニルスの不思議な旅』のスタート地点)。

 手こずっていたセッティングが終わり、ようやく"Paradox Hotel"のイントロの低音が・・・あれ?(汗)。タイミングが合わず、バラバラっと不格好に始まってしまった。こんなの珍しい…。しかしHasseは昨日より張り切って歌っているな。曲が進むにつれてだんだん演奏がまとまってきて、中間にあるエフェクター(今日のはクッキーモンスターver.だそうで)をかけたTomasの語り以降は、ほぼ調子を取り戻していた。

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 "Psychedelic Postcard"は少々テンポが遅め。Tomasの鳥系キーボードが可愛らしい(<フルートと言え)。そしてやはりヴォーカルハーモニーが素敵。5分半辺りからの高揚感がたまらない。Marcusのパワフルなドラムがそれに拍車をかける。そしてHasseとRoineのVo.の掛け合いが熱かった。今回のセットでは90年代のアルバムからの曲が何曲か復活しているので、Hasseがタンバリンやマラカを手にすることが多かった。彼のタンバリンの振りっぷりが大好きなので嬉しかった。(<ヘン)

 3拍子のサイケ調子なエンディングから、スペーシーなサンプリングとMini Moogを多用した"Hudson River Sirens Call"へ。このインストは"Progg Rock"を感じさせる。粘りのあるベースのバッキングが曲をしっかりと支え、その上でMarcusのドラムがどんどん激しくなり、さらに少しサイケで、ためをたっぷり聴かせたRoineのギターに幻惑される。CDで聴いても面白いと思ったけれど、ライブで聴くと不気味(というか奇妙)な空気に包み込まれたような感じがした。エンディングでJonasは変なベースタッピング技を披露して、曲を更に奇妙なものに仕上げていた。曲が終わっても、観客は拍手をしてもいいのかどうか迷っていたくらいに。

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 "Mommy Leave the Light on"ではJonasは楽器をフレットレスベースに持ち替えた。ギターのアルペジオはHasseが主に弾いていて、Roineはたまにつま弾く程度で、むしろ歌に比重を置いていた。悲しい子供の願いを歌う美しいヴォーカルハーモニーに、さらに切なくなる。
 アブストラクトなインプロを経て、"End on a High Note"。で一気に華やかになる。Marcusのキレのあるシンバルワークが印象的だった。そしてやはりサビのハーモニーは何度聞いても鳥肌が立つ。楽しい曲調なのに涙目になってしまうのはなぜだろう。

 短いMCを挟んで、Tomasのハト系、もとい、パイプオルガン風の音色で厳かに始まる"Pioneers of Aviation"。ギターがメインテーマを弾いた後、短めだけどゴージャスなチャーチオルガンソロが入り、そしてMarcusのソロへ。この人のドラムは、曲から離れると不思議なノリがある。今日は手数多めのジャズ風味。そしてベースソロ。今日はベースペダルを使って、ムーディーな雰囲気でスタート。Jonasはゆったりと感触を試すようにベースを弾き始めた。だんだん音数が増えていき、昨日のプレイとは調子が断然違う!ブレイクの後Marcusを交えてインプロ。超絶ソロじゃなくて、16ビートのグルーヴィーなリフで押していくのがいいね!変拍子のキメも呼吸がピッタリで、このリズム隊の相性の良さが感じられた場面だった。後方で並んで見ているRoineとTomasも納得の表情(^_^;)。そしてメインテーマに戻るとますますステージがエネルギーに満ちて、Hasseがギターを振りかざして、溢れるパワーを発散させていた。この人が大暴れする時は、ステージがいい空気になっている証拠。それが目に見えて伝わってくるのは愉快だ。

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色かぶりが酷かったので、モノクロで失礼します…

 喝采を受け、次の曲の紹介。「ドラッグによる偽の幸せ」の歌。Tomasがこういう事を曲にし、人に言えるようになったのは、自分の中で何かのカタがついたってことなんだろう。それが「I Am」に繋がっているんだね。原曲にはないギターとエレピのインプロがしみじみと素敵だった。狂気と夢の狭間のうめきを歌い上げるHasseのVo.は静かながら迫力がある。今まで彼になかったスタイルだと思う。RoineはVo.にからみつくような粘りのある音色のギターを弾く。そしてソロはオリジナルと全く違うメロディで、中音域を中心とした構成。だから入魂のチョーキングが入るとさらに冴える。聴いてる方も顔が「チョーキング顔」になっちゃうね(^^;)。でもよかったよ~。Hasseのファルセットを交えたバックコーラスも綺麗だった。

 昔に戻り"World of Adventures"と"Silent Sorrow"のメドレー。オープニングのヘヴィなギターリフに思わず頭を振ってしまう。(笑)RoineがMCをしている間、Jonasが鼻をほじっていたのは内緒だ(爆)。ゆったりのんびりの"WoA"の後、"Silent Sorrow"はかなりファンキーで、Roineの指もなめらか。

 Hasseのギターのエフェクトの設定に少し時間がかかり(YAMAHAの赤い物を何度も踏んでいた)、RoineがMCで繋いだ。メモリーの話かなんかしていたような気がする。"Jealousy"では、昨日以上に「Roineって歌が上手くなったなぁ~」と感心していた。ソロ「The Flower King」を出した頃と比べるとずっと声が強くなって、よく伸びるようになった。Tomasの優しいピアノの音色に思わず目を細めてしまう。少し不穏なエンディングの中、ドラムはそのまま次の曲"What If God Is Alone"のビートを刻み始める。

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 特別ドラマティックな仕掛けがある曲ではない。むしろシンプルな曲だけれど、逆にそれが、ゆっくりと波のように心に染みいる効果に繋がっている。そのなかでHasseの厳しさも優しさも一緒に含んだ声が、語りかけるように歌う。腕を大きく広げるジェスチャーは、観客全員を受け止め、包容するかのようだ。「うわー泣くー!!」と思ったけど…床置きされたJonasのベースを踏んでコケそうになったHasseを見ちゃったからな(笑)。惜しかった(何が)。でもかなり、こみ上げてくるものはありましたよ。

 Roineの「Last Song」とのMCに観客は「No-!」の返事。だって"Just This Once"やってないし!!

 "I Am The Sun"で事件は起こった。気持ちよく身体を揺らして聴いていると、突然キーボードの音が消えた。バンドはしばらく気がつかなかったが、Keyが入るべき音が入らず、そこでバンドの演奏が止まった。(RoineとHasseが、Keyが弾くはずだったメロディを口ずさんでいるのが可愛かった ^_^;)「Don Tomas、どうしたの?」とRoineが訊くと、「パワーダウンしたので、サンプリングを読み込むのに25分くらいかかる」とのお答え。何事??Tomasがシンセをいじっている間、Roineが「25分待つ?みんなバス?電車?自転車?」「どうしようか、もっとギターを聴く?」とか観客とコミュニケーションを図る。色々やりとりをして、他のKeyに入っているオルガンを使って曲を続けることになった。中断された箇所から曲を再開すると、観客から拍手が起こった。アクシデントがあっても演奏のテンションは下がらずに、むしろさらに盛り上がった演奏を聴かせてくれたバンドに、プロの仕事を見たよ。

 「もう一曲聴きたい?」当たり前ですよ!

 

 続きます。