【2010】ぬむるすウプサラ放浪記  3日目(3)live review

 

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会場に貼られていたポスター

 1曲目はまさかの"Above"!わわ、いきなりワタクシ的必殺の曲が来てビックリした。だってイントロ付の"Fallen Empire"だとばかり思っていたから。ヘヴィなリフのイントロから、切ないギタートーンへ。ここはHasseがスライドギターを弾いているのかと思ったけど、ライブではAntonが弾いていた。CDのインナーでは長髪だった彼の髪は短くなっていて、普通の北欧好青年になっていた。後頭部が寝癖っぽく立ち上がっている辺りがポイントだ(笑)。若いながらいい音を出すなぁ。そして静かに歌が始まる。

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 この瞬間をどれだけ待っただろう。この3年ほどの葛藤と告白、喜びと落胆、さまざまな私的な出来事を思い出す。こんな日が来るなんて夢のようだ。だから"Above"では写真を撮らずに、ずっと静かに歌に聴き入っていた。あぁ、歌詞を一部忘れましたね(笑)。でも些細なことだ。今目の前でHasseが自分のメロディを歌っていると言うことが重要なのだ。TFKと歌う声域が違うからかもしれないけれど、とても声が伸びるし、安定している。あと、微妙な表情や節回しがいいね。演奏の方は、キーボードのヴォリュームが少し小さいことが気になったけど、アンサンブル自体はかっちりしていて、安心して聴ける。ステージに上るのがこれで3度目とは思えない、余裕のようなものを感じた。

 特にHasseとThomssonは、客に対しての「見せ方」もちゃんと知っている。エンディング、アルバムでは遠くの方でシャウトしているような演出だったけど(TFKの"The Blade of Cain"を彷彿させる)、ライブではそのままストレートに歌い、"Everyday"になだれ込む展開。穏やかなHasseの歌が心地よい。

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HasseとThomsson

 それから、アルバム中最も人気が高そうな"Piece of the Sky"。全体的にアルバムよりヘヴィで、テンポが速めだ。HasseはTFKの時と違って、ほぼ一人で歌いっぱなしなので、ギターを掲げたり、ヘドバンしたりのアクションは控えめに見えた。途中、タンバリンを振るシーンもあって(♪)、次の楽器に移るときに投げ捨てていたのが面白かった。どこかに引っかけてる余裕なんかないわな。中間部、Hasseがピアノの伴奏のみで歌い上げるシーンは感動的だった。

 "Norwegian Wood"のフレーズをちょろっと弾いてから、次の"Song for July"では、小気味良い演奏に客もノリノリ。アルバムの中では短い曲ということもあり、さらっと流れてしまうけれど、ライブではダイナミクスが強調されて、ドラマティックな曲になっていた。夏を待ちわびるワクワク感とか憧れのような気持ちが、本当に良く出ていた。ジャジーなKjellのプレイがいいアクセントになってる。Thin Lizzyのようなツインギターのハーモニーを弾く箇所では、HasseがAntonに寄り添ったり、背中合わせで弾いたりしていた。ハードロック的で視覚的にCoolである。

 次は"Life will Kill You"。TFKほどヴォーカルハーモニーは完璧ではないので、改善する点を指摘するならばここだろう。オリジナルとは違うアレンジで、特にキーボードが違っていたように思う。一方Antonはオリジナルを踏襲したようなギタースタイルで、Roineの太いギターサウンドをよく表現していたと思う。そのままコピーばかりではなく、Hasseの歌の後ろで相当派手に弾きまくるシーンもあった。彼は元々Paul GilbertとかJohn Petrucci辺りが好きみたいだ。Hasseは、ギターを弾かないときは大きく腕を広げ、歌い上げるのはTFKで見たときと同じ。でもこの曲、他のバンドが演奏するのを聴いて、あらためて「ちょっと変な曲」だと思った(拍子は7/8+6/8かな)。特にリズム隊は自分たちの音を拾うのに苦労したんじゃないだろうか。この曲は完奏せず、2番まで歌ってから、キーボードとギターの静かな掛け合いを挟んで"Magic Pie"に繋がる展開。(途中の"Why do we all have to build dreams..."のところから。)TFKではこの曲をライブでやっていないはずなので、ちょっと嬉しい。しかし、他の曲に比べるとちょっとタルい(^^;)。Kjellの軽やかなソロと、Antonのエモーショナルなソロの後に、少しペースアップして、ようやく乗ってきた。Hasseもこの方が歌いやすいのではないだろうか。

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今思うと、大股開いてギターを弾くポーズもPetrucciぽかったかもしれないAnton

 実は、一番驚かされたのが"Only My Blood"である。まずはイントロのHasseのソロ。初めのローレンジはちょっと出しにくそうだったけど、次の本来の声域の歌唱は見事。その呼吸に耳と心を惹きつけられる。その後のメインテーマに入ると、アルバムで聴くよりずっとずっと情熱的でヘヴィだったのだ。単調になってもおかしくない構成の曲なのだけど、バンド全体がよくメリハリをつけていて、全く聴衆を飽きさせることがない。だからバックコーラス、もうちょっと頑張れ(^^;)。今まであまりOlaのドラミングについて書いたことはなかったんだけど、この人のプレイはライブの方がヘヴィで断然良いな。Thomssonとの付き合いも長いのでリズム隊の呼吸はばっちりだ。KjellとAntonのソロの応酬から、ユニゾンで盛り上げるところはとてもロックしていた。ギターとキーボードで、水準以上のソロもバッキングもできるミュージシャンが確保できて、あんたラッキーだよ、Hasse。(<えらそう)

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AntonとKjell。真剣に知名度が上がって欲しい

 その後にMCとメンバー紹介。全てスウェーデン語で、地元民しか分からないネタの応酬があってよく分からなかったんだけど、HasseとThomssonが35年来の友人である、と言うことは何となく分かった。ステージでもいいコンビネーションだよね、この二人。そのThomssonのベースフレーズから"I wouldn't Change a Thing"。TFKでのHasseの声と言えば、少しハスキーで、透き通るようなハイトーンだと思うんだけど、決して弱々しく聞こえないんだよね。時々「No---no,no,no,no,no,no」と歌うのは、彼が大好きなPhil Lynottみたいだ。サビの部分で観客が自発的に歌っていたので、もっとライブを重ねたら、観客との掛け合いもできる楽しい曲になるんじゃないかな。Key,G×2の面白い掛け合いパートもあるし。ツインギターパートで更にThin Lizzy色倍増(^^;)。

 すかさず"What if God is Alone"。あまりに意外な展開で、再び金縛り。これはTFKの中でもかなり好きな曲に入るんだけれど、やはりRoineの歌からジワジワと盛り上げていって、Hasseがサビで歌い上げる、という展開がキモだと思うのだ。なので、途中からじゃなくて最初から演奏して欲しかったな。でも"What if silence will fall..."からのHasseの歌は素晴らしく、4年前に聴いたときより表情豊かに、力強く響いていた。年齢的な衰えはヴォーカリストに一番顕著に表れると思うのだけれど、この人にはそれがあまり見られないのがすごいと思う。

続きます。